神鳥邸の午睡– category –
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神鳥邸の午睡
午後の紅茶、三姉妹気分で
神鳥美鶴には兄が三人いる。二十歳年上の長兄・崇征(たかゆき)と十六歳年上の双子の次兄・陽雅(はるまさ)と三兄・湊雅(みなまさ)だ。美鶴が物心つく頃には成人していた彼らは、程よい距離感を持ちながらも年の離れた妹を可愛がっていた。もっとも... -
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ラズベリーと、あなたのクレープ
レースの日傘をさした美鶴は、あ、と声をあげる。半歩後ろを歩いていた仁科は、美鶴の視線が動いた瞬間には足を止めていた。 彼女の視線の先には、キッチンカーが一台停まっていた。公園の入り口横に停まっているパステルイエローの車は、どうやらクレ... -
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今日は贅沢マンゴーで
子どもたちは強くて大きなものが好きだったりする。そして、新しいものもわりと好きだ。つまり、最近桜崎グランフォレストタワーに引っ越してきた、仁科貴臣という強そうで大きい男は子どもたちの憧れになったわけだ。 しかも、この男の隣にはだいたい... -
神鳥邸の午睡
今日も、貴臣さんが全部やってくれる
昨晩から仁科が優しかった。 否、彼が美鶴に対して優しくない日などないのだけれど、昨日は特に優しかった。美鶴が誘わなければ一緒に入浴することもない男から、一緒に入浴しよう、と提案してくれた(美鶴にとって実に嬉しくて、お気に入りのバスソル... -
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しゃく、と夏の音がした
暑い日だった。暑くない日がおそろしいことに、六月からなくなりつつあるものなのだが――三十階建てのタワーマンション、桜崎グランフォレストタワー近くにある、桜通り商店街も、すっかり夏の暑さに茹っている様子だった。朝と夕方の二回に打ち水をして... -
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ひげと、朝と、あなたの手
美鶴は仁科の顎を見ていた。 彼女が朝起きたときには、いつも丁寧に処理をしたあとなのか、ひげのひとつも見当たらない。今まで気にしたこともなかったが、たまたまつけていたバラエティー番組で、髭を伸ばしているタレントがいたのだ。 年の離れた兄... -
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好きな人の髪を乾かす夜、僕はシャワーを長めに浴びる
美鶴は一日の疲れを癒すために入浴していた。規格外に大柄な仁科と入っても大丈夫な強度の浴槽と、保温と滑り止めの加工がされた床は、二人がびたびたに体や髪を濡らしても問題なかった。肩甲骨ほどまで伸びた髪をシャンプーで洗い流し、トリートメント... -
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それが恋になる瞬間
美鶴には五歳のときからお気に入りのテディベアがいる。 正しく言うならば、そのテディベアは人間なので、そう呼ぶのは間違いだ。しかし、美鶴の第一印象は大きくてかわいいテディベアみたいな男の子、なのであまり間違っていない。 身体が強くない美... -
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今日は不意打ちキスをしてみたくて
美鶴と仁科は交代で風呂に入る。ふたりで一緒に入るには、まだ少しばかり美鶴の勇気が足りなかった。 服の上からでも分かる、筋肉の隆線。なだらかな山のように、険しさを持つ谷のような美しい盛り上がりたちをかわいい、と表現する美鶴だが、それは服... -
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クマみたいな人と、お姫様と
仁科は搬入してくれたスタッフたちが、事前に用意してくれた食材を使って食事を作ろうか、とソファーに座る美鶴に提案した。ちょうど時刻は正午を半分ほどすぎたあたりだった。衣料品やインテリア小物、洗剤をはじめとした諸々の雑貨類を予定していた場...