たまたま銀河間ネットワークサービス(地球でいうところのSNS)の広告で見かけたサービスに、サロセイル=エカ・メルは申し込んでいた。クローズベータ版のサービスにも申し込んでいたのだが、そちらは生憎運がなかったのか落選してしまったのだ。今回申し込んだのは、オープンベータ版だ。
サロセイルはいろいろなものに興味を持つ。今回彼が興味を持ったのは、メール転送サービスだった。ただのメール転送サービスだったのなら、彼は別に興味を持たなかっただろう。銀河間での通信サービスは日夜様々なサービスが生まれている。銀河間を旅するサロセイルにとって、一番有名なメール転送サービスにすでに加入済みだし、サブスクリプションにも加入している。
そんな彼がメール転送サービスに興味を持ったのは、それがただのメール転送サービスではなかったからだ。時空間ランダムメール転送サービス、と銘打たれた広告をみた彼は、興味をそそられた。へえ、と思ったし、たしかに最近では短時間ではあるが、過去や未来へのタイムトラベルサービスもあると聞いていた。それらの理論を活用したサービスなのだろう。メールであれば、過去や未来に転送しても、そこまで大きな影響を与えることはない、ということなのかもしれない。もっとも、タイムトラベルサービスに関しては銀河間の連合(かつて地球にあった国際連合と呼ばれた連合組織のようなものだ)では問題視されているおり、法整備も各銀河で進んでいる。場合によっては、このメール転送サービスも打ち切りに鳴る可能性はあるのだろうが。
……閑話休題。
サロセイル=エカ・メルにとって、過去や未来は興味が無いが、過去や未来のひとびとと対話が可能であるのならば、対話してみたいという気持ちはあった。友人の遺跡発掘・調査を仕事としている青年、アッシュ・ジークヴァルド・ルクスペインとも、かつて過去の人々がどのように建造物を生み出したのかを間近で見てみたいと話したことがある。もっとも、遺跡オタクのアッシュとしては、単純に遺跡となった建造物の正確な知識を得たいというのだろうけれど。
サロセイルはアッシュに、時空間ランダムメール転送サービスのオープンベータ版がはじまったことを連絡してから、自らもメール転送サービスに送信するメールを作成する。誰に届くかも分からないメールだから、無難なメールがいいだろう。つまらない内容になってしまうが、今後どこの誰かも分からない存在からメールのやりとりをしてもらうためには、多少の不便は致し方が無いことだ。
「えーっとぉ……何にするかな……はじめまして、サロセイルといいます。……いや、これだと普通すぎるか?」
彼には珍しいことに、悩みながら文面を作る。結局できあがったのは文面はこうだった。
【はじめまして。メール転送サービスを使いました。最近見た風景です。お返事待ってます】
彼なりに見知らぬ他人に送信するメールを考えた結果、即座に破棄されてしまいそうな内容が完成していた。添付した風景は、虹色に輝くの鍾乳洞の光景だった。正気をそがれそうな写真を添付して、彼はメールを送信した。