神鳥邸の午睡– category –
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ハロウィーンと黒猫の話
美鶴と仁科は神鳥本家の商店街にいた。本家邸宅敷地内には、温泉や映画館、劇場といった娯楽・休養施設のほか、邸宅内でのみ利用できる仮想通貨・ゆかり(一円=一ゆかりである)が利用できる商店街・緋鳥街(ひとりまち)がある。商店街やその他施設は... -
『うまく言えない』から始まり、【珈琲】の出てくる話
『うまく言えない』から始まり、【珈琲】の出てくる話(予備:魚・霧) お題ガチャ #書出ワード https://odaibako.net/gacha/171 うまく言えない、と仁科は常々思っていた。 美鶴がさらさらの肩甲骨まである長い黒髪をなびかせるたびに、白魚のようにほ... -
「あの人、みんないつも仁科さんって呼ぶけど、書類上の名字はどっちだっけ」
あれ、と声を上げたのは新人スタッフだった。 本邸スタッフを親に持っていたり、幼い頃に神鳥家にスカウトされた天涯孤独な子どもたちが育ってスタッフとなることが大半の神鳥家本邸スタッフだが、ごくごくまれに――本当にまれに外部からの転職組がいる... -
『初めてだった』から始まり、【月】の出てくる話
『初めてだった』から始まり、【月】の出てくる話(予備:手帳・沼) #お題ガチャ #書出ワード https://odaibako.net/gacha/171 ▼▼▼ 初めてだった。美鶴にとって、屋外で自分で肉を焼くという行為が初めてだった。時々、本邸スタッフの家族たちが、家庭持... -
ストリートピアノと連弾の話
その番組を見たのは、本当に偶然だった。 衛星放送に切り替えていたのも知らずにつけたテレビが、たまたま衛星放送の公共放送を流していたのだ。それはストリートピアノの番組だった。街中に設置されたピアノを弾く人たちに話を伺うというものだった。... -
【R18】夫婦だから、見せられる顔。
女性にしても華奢な体躯をしている美鶴は、どこもかしこも細い。首も腕も、足も胴体もなにもかもが細くて薄い。内臓が入っているのか不安になる細さの彼女は、今は大好きな夫である、仁科貴臣と入浴中だった。 夫である仁科は美鶴とは対をなすように、... -
この夜を、すこし特別に
夕食を食べ終えたとき、美鶴がそういえば、と口を開く。どうかしましたか、と仁科が尋ねると、陽雅お兄さまが持たせてくれたお酒が冷蔵庫で冷やしてあって、と美鶴は教えてくれる。仁科は見覚えのない小瓶が確かに冷やされていたことを思い出す。華奢な... -
かわいいの定義
子どもたちの声が商店街に響く。多目的フリーラウンジ・ココトコでは、数名の小学生と思われる子どもたちが集まっていた。漏れ聞こえる内容からは、ここの計算が合わない、とか日記の天気がわからないとか、そういうものだ。どうやら、夏休みの宿題を片... -
午後の紅茶、三姉妹気分で
神鳥美鶴には兄が三人いる。二十歳年上の長兄・崇征(たかゆき)と十六歳年上の双子の次兄・陽雅(はるまさ)と三兄・湊雅(みなまさ)だ。美鶴が物心つく頃には成人していた彼らは、程よい距離感を持ちながらも年の離れた妹を可愛がっていた。もっとも... -
ラズベリーと、あなたのクレープ
レースの日傘をさした美鶴は、あ、と声をあげる。半歩後ろを歩いていた仁科は、美鶴の視線が動いた瞬間には足を止めていた。 彼女の視線の先には、キッチンカーが一台停まっていた。公園の入り口横に停まっているパステルイエローの車は、どうやらクレ...