神鳥邸の午睡– category –
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ひげと、朝と、あなたの手
美鶴は仁科の顎を見ていた。 彼女が朝起きたときには、いつも丁寧に処理をしたあとなのか、ひげのひとつも見当たらない。今まで気にしたこともなかったが、たまたまつけていたバラエティー番組で、髭を伸ばしているタレントがいたのだ。 年の離れた兄... -
好きな人の髪を乾かす夜、僕はシャワーを長めに浴びる
美鶴は一日の疲れを癒すために入浴していた。規格外に大柄な仁科と入っても大丈夫な強度の浴槽と、保温と滑り止めの加工がされた床は、二人がびたびたに体や髪を濡らしても問題なかった。肩甲骨ほどまで伸びた髪をシャンプーで洗い流し、トリートメント... -
それが恋になる瞬間
美鶴には五歳のときからお気に入りのテディベアがいる。 正しく言うならば、そのテディベアは人間なので、そう呼ぶのは間違いだ。しかし、美鶴の第一印象は大きくてかわいいテディベアみたいな男の子、なのであまり間違っていない。 身体が強くない美... -
今日は不意打ちキスをしてみたくて
美鶴と仁科は交代で風呂に入る。ふたりで一緒に入るには、まだ少しばかり美鶴の勇気が足りなかった。 服の上からでも分かる、筋肉の隆線。なだらかな山のように、険しさを持つ谷のような美しい盛り上がりたちをかわいい、と表現する美鶴だが、それは服... -
クマみたいな人と、お姫様と
仁科は搬入してくれたスタッフたちが、事前に用意してくれた食材を使って食事を作ろうか、とソファーに座る美鶴に提案した。ちょうど時刻は正午を半分ほどすぎたあたりだった。衣料品やインテリア小物、洗剤をはじめとした諸々の雑貨類を予定していた場... -
後に公式記録として保管されることになった昔話
仁科貴臣の最初の記憶は、五歳の誕生日を迎えた四月の終わりからはじまる。狭くはないが、決して広くはない、手入れはされているが築年数が経過した古ぼけた孤児院が最初の記憶だ。 検診のたびに、仁科は生まれつき骨格が大きく、筋量も多いと言われて... -
2704のご夫婦の目撃談
「……みた?」「……みた」 佐竹夫妻は昼の買い出し(ファストフードのテイクアウト)を済ませて帰宅したところだった。子どもたちの分と自分たちの分のハンバーガーとフライドポテトを手に、思わず足が止まった。 最近あった桜崎グランフォレストタワーの... -
桜崎グランフォレストタワー27階南東角部屋(日当たり良好)の部屋の噂
豊かな自然と、ほどよく発展した街並みが広がる桜崎市。商業施設や文化施設が充実し、郊外に出てしまえば緑豊かな公園もある。市営のバス路線や、JRの快速通勤も停まる主要駅を抱えており、交通の便もいいため流入する市民が多い。 そんな桜崎市の中心...
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