私とわたしの日日是好日– category –
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私とわたしの日日是好日
コートの似合う季節にて
もふもふしている。それは、服を手に取った絢瀬の抱いた最初の感情だった。 そのコートは襟の部分と裾の部分、袖口にもファーがついていた。ブラウンのフェイクファーたっぷりのそれに、ずいぶんと可愛らしいコートだな、とも思った。 (まあ、買いたい... -
私とわたしの日日是好日
a sensation of happiness
それは、ある年の、冬の終わり、春にはいったばかりの、まだ年度が替わる前の頃の話だった。 ヴィンチェンツォが日本の企業に転職して一年、まだ絢瀬が大学生で、今の企業から内定をもらった頃。入社の日取りや、入社までに自身のスキルを磨いていたあ... -
私とわたしの日日是好日
緑の目をした怪物
さんさんと日差しがさしている。レースカーテン越しに入ってくる日差しは穏やかそのものだ。 白く長い毛足の柔らかなラグに転がって、絢瀬とヴィンチェンツォは昼寝をしていた。すやすやと穏やかな寝息を立てて、ゆっくりと胸を上下させて、穏やかに眠... -
私とわたしの日日是好日
砂糖味のしあわせ
絢瀬は珍しいものを見た、と思った。 朝食の支度のため、絢瀬より早く起きるヴィンチェンツォがまだ寝ていたのだ。額から垂れた、濃いめに煮出した紅茶のような色合いの豊かな髪が、彼の彫りの深い顔を少し隠している。 そ、と髪をかきあげてやり、形... -
私とわたしの日日是好日
冬来たりなば春遠からじ
その日は温かな冬の日だった。 日差しは穏やかで暖かく、もこもこに着ぶくれをするほど着込む必要がないけれど、身を切るように風は冷たい。二人は色違いのダウンジャケットに身を包んで、のんびりとアスファルトを歩いていた。 洗濯も済ませると、二... -
私とわたしの日日是好日
È come il miele.
ヴィンチェンツォはドライヤーで髪を乾かして終えると、ブラシで軽く整える。風量でもつれた髪をほどいてやると、ゆるくウェーブした髪がふわりといつものような髪型に戻る。垂れてくる前髪だけ、ヘアクリップで留めてやる。 無地の黒の寝巻きに着替え... -
私とわたしの日日是好日
綿菓子のように笑う
title by Lump(http://cogio.net/lump/) チョコレートの祭典、バレンタイン。とはいえヴィンチェンツォは、ただチョコレートを待つだけの男ではない。どちらかと言えば、贈りたい方の男だ。 親愛なる友人や、敬愛する職場の同僚や上司、そして最愛の... -
私とわたしの日日是好日
海棠の睡り未だ足らず
「ねえ、アヤセ。海に行かない?」「もう夜中よ。行ったところで、真っ暗で何も見えないわよ」 金曜日の夜のことだった。 二人、いつものように並んでソファーに腰を下ろしてテレビを見ていた。映画のテレビ放送を、時折あの料理おいしそう、とかそんな... -
私とわたしの日日是好日
ケーキはどちらだ
絢瀬は甘いものはそこまで好きではない。嫌いか、と問われれば、嫌いではない。そう答えはするが、好きかと尋ねられれば、そうでもない。そう、答える程度だ。要は、あれば食べるが、そこまで好んで食べないのだ。 それでも、まるで食べないわけではな... -
私とわたしの日日是好日
冬、こたつにて
「っあー……」 ちゃぽん。 半透明の赤い湯に左足から滑り込む。シャンプーもトリートメントも、全身をくまなく洗い上げた絢瀬は、湯船に全身を浸からせる。温かな湯に今日の疲労が溶けていくようだ。 思わず口から声が出る。絞り出すような声は、湯船に...