title by Cock Ro:bin (http://almekid.web.fc2.com/ )
栫井優の周りには、意外なことに人が多い。人目を引く肢体の持ち主ではあるが、それ以上に彼女の性格に難があるにもかかわらず、だ。
それはひとりでいる彼女を心配して話しかける生徒であったり、彼女についていくことで、寄ってくる男子生徒のおこぼれにあやかろうとする生徒であったり様々だ。休み時間ともなれば、すぐに人が集まる彼女は、一見すれば人気者と言っても良いだろう。たとえ、外に男がいるとしても、自分の方を選んでもらえると思って、抜け駆けをする男子生徒は時々いるものだ。いくら停戦協定を無言のうちに結んでいたとしても、だ。
「ねえ、栫井さん。こないだ二組の坂野くんが栫井さんのこと聞いてきたんだけど、なんかあったの?」
「ん? 特になんもないよ」
「えー!? 坂野くん、栫井さんが好きなものとかめっちゃ聞いてきたから、プレゼントとか贈るのかと思ってたのに」
「残念。何もなかったよ。林さんこそ、狙ってるなら告白したら?」
「えー? どうしようかなあ。でも、本命じゃない子から告白されて困らないかなあ」
明らかに、お前の顔を立てるために告白はしてないんだよ、の顔をしながら、林と呼ばれた女子生徒はぶりっ子のようなポーズをする。
言いたいことを察しながらも、優は知らぬ顔をする。林のために先んじて告白を潰すのもする予定はない。なぜなら、その行為をする必要を彼女が感じていないからだ。仮に告白をされたなら、断ることはするかもしれないが。
女子の腹の探り合いは面倒よね、と思いながら、優は林を見る。坂野くんはやっぱり栫井さんとお似合いだよぉ、と心にも思っていないことを言う彼女に、はいはい、と適当に流す優。
「でも、坂野くん、栫井さんより背が低いし、釣り合い取れなくない?」
「確かに。顔は悪くないけど、やっぱり身長は欲しいよね。林さんなら、ちょうどいいかもしれないけどさ」
「そうかもしれないわね」
「ええー? そうかなあ」
「坂野くんより、三組の下山くんのほうが背が高いし、アリじゃない?」
「でも下山くん、成績微妙だって聞いたから、ちょっとなしじゃない?」
「あー、わかる」
取り巻きの他の女子から、散々な言われかたをしている坂野と下山の話を聞きながら、優はそもそもその二人がどんな顔だったかを思い出す。名札を見ないと顔も理解できないクラスメイトであるから、他クラスの人間なんて、そもそも覚えてすらいない。
対人に対して興味がないわけではないのだが、どうにも優の周りには彼女のおこぼれにあやかろうとする人が多く、あまりにも矮小がすぎるからだろうか、覚える気にならないのだ。それは、彼女の肢体目当てなのが透けて見えるから、ひどく退屈なのだ。
クラスメイトたちの無意な会話を聞きながら、優は次の英語は小テストがあるんじゃないの、と口を開く。
「そうじゃん、単語テストあったわ」
「やっば、忘れてた。勉強しとこ」
「え、うそ。あたし単語帳持ってきてたかな」
めいめいそんなことを言いながら、自分の席に戻る。自席から女子生徒を追い払った優は、のんびりペットボトルに口をつける。隣の席にどっかりと座り込んだ男子生徒が、今日暇、と声をかけてくる。明るい茶色に染めた彼は、派手な格好が好きらしく、派手な見た目の優にしばしば声をかけてくるのだ。
「暇か、って言われると暇だけど、あんたと帰るほどは暇じゃないかな」
「お、外にいるっていう男とデートか? そいつより、俺の方が同じクラスだし? なにかと融通が効くと思うけどな」
「うるさい男と、話を聞かない男は好きじゃなくてさ」
「なんだそりゃ。俺はうるさくもないし、話は聞けるぜ?」
「はいはい。そこあんたの席じゃないでしょ。もうすぐチャイムなるし、席戻りな」
「ちっ、つまんねえの」
悪態をつきながら席を離れる男子生徒を見ることもなく、優は机の上に教科書とノートを用意する。清掃当番じゃないから、今日は図書館で本でも借りて帰ろうと思っていたが、真っ直ぐ学校を後にした方が良さそうだ。
そんなことを考えていると、チャイムが鳴る。ざわざわとしていた教室が静かになり、教師が入ってくる。一番最前列に小テストの問題文と解答用紙が配られる。
最後尾の窓際の席に座っている優の手元にまで届いたのを確認すると、教師は五分間、とだけ告げると小テストを開始させる。
しゃ、とシャープペンシルを走らせながら、優は暇そうに解答欄の空白を埋めていく。五分間も必要ないくらい、その手は軽快に動いていた。