ハリエンジュの赤い星– category –
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コーヒーと季節行事と成熟した子ども
栫井優は電車の車内広告を見ていた。たまたま――本当にたまたま見かけたその広告には、コーヒー博覧会と銘打たれていた。 優はコーヒーがそれほど好きなタイプではないが、嫌いなタイプでもない。あれば飲むが、なければ淹れるほどではない、というくら... -
内緒話は誰も知らない
クリスマスのあとは年越しだ。年末年始がダッシュで迫ってくるこの時期は、さすがにイベント盛り込みすぎだろうと呆れてしまう人もいるだろう。それはイブキと名乗る男もそうだった。 チェーン飾りのついたバンスクリップで髪をまとめた彼は、部屋に散... -
オレンジ、パープル、そしてブラック
十月に入り、急速に気温が冷えてくる。この間まで厳しかった――夏と変わらない残暑はなんだったのか、と思いながら、優はパーカーのポケットに手を入れる。隣を歩く男も、流石に冷えてきたのか長袖のロングTシャツを着ていた。 自販機かコンビニで温か... -
メレンゲ、シロップ、そしてゼリー。またの名を、
「先日読んだマンガにあったのですが」「ん?」「焼いたマシュマロが美味である、とありましたが事実なのでしょうか」「あー……まあ、たしかに美味しいかな」 あたしはあんまり焼いたことないけど。そう言いながら優は、最後に焼いたのは、たしか小学校の... -
アイス・イン・ザ・スカイブルー
汗が吹き出して止まらない。猛暑日だとか酷暑日だとか、とにかくひどい夏の暑さに優は左目を伏せて汗をタオルハンカチで拭う。目に染みる汗は、いくら拭いても止まりそうにない。 隣に立つ男・千種川雅貴もまた、顔の横を流れる汗をガーゼ生地のハンカ... -
チョコレート・リップサービス
うちのクラスにはチョコレートを山のように受け取る女がいる。 下手な男よりも背が高いその女の名前は栫井優(かこい・ゆう)といった。ゆるくうねったグレイアッシュのロングヘアは、毛先にスカイブルーのエッシュが入っている。髪色に派手な青いネイ... -
世界の隠し事
その展覧会はいわゆる「用途不明のもの」を収集したものだった。それは雑多に収集された、古今東西の摩訶不思議なものの展覧会だった。 優はその展覧会に千種川に連れられてきたのだが、どういう理由があって彼がここに彼女を連れてきたのかがわからな... -
グリッター色の魔法 下
「それで、この間言ってた結節点の結晶、ってなんなわけよ」「我々の世界でエネルギーとして利用されている元素ですね。結晶化すると膨大なエネルギーを含んでいるので、扱いが難しいのですが、人為的に結晶化させ、エネルギーとしています」「へえ……そん... -
グリッター色の魔法 上
二人は薄暗い街を歩いていた。無音、ガソリン車の匂いすらしない街を街灯が照らしている。アスファルトを照らす中、優は思い出したように口を開く。 「……あのさ」「なんでしょうか」「これ、さっきから同じ場所歩いてない?」「そうですね。五度は同じ道... -
欲と男と女の話
斜向かいに座る男は美男子だ。美男子、という言葉ですら足りないほどに顔がいい。そして、イケメンという言葉ではチープすぎて物足りない。あらゆるイケメンアイドルや俳優を寄せ集めて、AIに学習させて描いたらこんな顔が出力されるんだと思わせる顔...