私とわたしの日日是好日– category –
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私とわたしの日日是好日
似たものは烏
珍しく絢瀬がスマートフォンをじっと見ている。時々右手でスワイプしているから、読書でもしているのかもしれない。しかし、それならば読書用になっているタブレット端末を使えばいいだけである。 しかし、そうしない理由が何かあるのだろう。そう考え... -
私とわたしの日日是好日
花のように、愛のように
世間的には――暦通りであれば三連休が控えている金曜日。休みの前の日から泊まろうとする客は多いもので、僕は研修中のバッチを下げながら、お客様の荷物をクロークに並べていた。どれもこれもスーツケースは大きくて、何泊かするんだろうなあと思わせる... -
私とわたしの日日是好日
私とわたしの大切なこのとき
「ねえ、アヤセ」「なにかしら」「実は、ひとつお願いがあるんだけど」 昨日のバルサミコ酢をソースに使った豚肉の炒め物――味がどうにも二人の舌に合わず、結局残して翌日しょうが焼きとして生まれ変わらせたそれに舌鼓を打ちながら、ヴィンチェンツォは... -
私とわたしの日日是好日
チェリーと口づけ
スーパーに並んでいたのがおいしそうだったから、という理由で買ってきたさくらんぼを食べながら、絢瀬は茎を見てあることを思い出す。それは『さくらんぼの茎を結ぶことが出来る人間はキスがうまい』という俗説だ。それが本当かどうかは分からないが、... -
私とわたしの日日是好日
誰よりも素敵なあなたの騎士
「ヴィンス、ここ」 はねてるわよ。 絢瀬は自分の右の側頭部に触れながら、ヴィンチェンツォの寝癖を指摘する。そっと自身の手で触れてみると、確かにそこだけぴょん、と跳ねている。 昨日乾かしが足りなかったのかなあとヴィンチェンツォはぼやきなが... -
私とわたしの日日是好日
百円の幸福
「アヤセ、ドルチェにカステラはどう?」「カステラ? 珍しいわね、もらおうかしら」 夕飯を済ませた二人は、風呂が沸くまでの間のんびりと過ごしていた。特に見たいテレビ番組があるわけでもなく、読みたい本があるわけでもない。ただ二人は、ワインレ... -
私とわたしの日日是好日
おおきなともだち、ちいさなともだち
寝る前にこっそり食べた甘い物のせいかもしれないが、涼介は上の歯に虫歯が出来た。痛くない、大丈夫、やだ、いきたくない。散々だだをこねてみたが、母親には通用せず、自宅のあるマンションからほど近い歯医者に連れてこられた。 おだやかな生成り色... -
私とわたしの日日是好日
ミッドナイト・レイニー
ふ、と意識が浮上した。 一度眠りに落ちると、絢瀬は朝まで起きることが少ないのだが、今日の夜だけはそうではなかった。ふわり、と水中からあがるように、スムーズに意識が浮上した。一瞬、もう朝かと誤認するほどだった。夜光塗料が針に塗られた時計... -
私とわたしの日日是好日
つまりは男子会の誘い
ヴィンチェンツォはジムの大浴場で汗を流していた。手足をぞんぶんに伸ばせる、それだけでトレーニングの疲れも吹き飛ぶと言うものだ。 自宅ではなかなか伸ばせない手足を思う存分に伸ばしていると、相変わらずいい筋肉してるねえ、と声をかけられる。... -
私とわたしの日日是好日
口づけに愛を込めて
ヴィンス、座って。 そう言われるがままに、ヴィンチェンツォはソファーに腰掛ける。座った彼の正面に立った絢瀬は、あなた本当に大きいわよね、と嘆息する。ヴィンチェンツォが座るか、膝をついてはじめて、絢瀬からキスができるようになるのだ。それ...