私とわたしの日日是好日– category –
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私とわたしの日日是好日
ラブレターに口づけを添えて
あさってはキスの日らしいですよ。 終業後、残業が確定してしまった妋崎(せざき)はぼそりという。なにそれ、と叶渚(かんな)が尋ねると、昼休憩の時にツイッターで流れてきたんですよ、と返ってくる。 「なんでも、昭和二十一年に日本ではじめてキス... -
私とわたしの日日是好日
スリーピィ・グッドモーニング
内容は覚えていないが、とてもいい夢を見た。 意識はゆっくりと浮上して、これ以上なく完璧な寝起きだ。二度寝をしたくなる中途半端な眠気もなければ、昨日まであった身体のだるさもない。 昨晩、久しぶりに職場に顔を出したところ、ちょうど棚卸しを... -
私とわたしの日日是好日
甘い罠
「……?」「どうしたの?」「んん……いや、なんでもないよ」 なんでもない、と答えたヴィンチェンツォの表情は、どこか違和感を覚えているような顔だった。なにか、しっくりこないという顔をしながら、彼は食事を終える。 絢瀬の空になった皿を受け取り、... -
私とわたしの日日是好日
アイスミルクに愛を添えて
雨上がりで湿度も高い夕方の事だった。 耐えきれないほどではないが、ジャケットが張り付くような感覚が嫌で、絢瀬はジャケットを脱いで腕にかけていた。いくら春夏向けのスーツで軽く、通気性に優れていようとも、張り付く感覚からは逃れられない。長... -
私とわたしの日日是好日
液晶テレビの前で、二人
開幕十五分だけで良いんで見てください。まだ見れそうだと思ったら、見れるところまで見てください。 そう言われて見始めた前編3DCGで作られたアニメーション映画は、なんとも言えない物だった。妋崎(せざき)の頼みでなかったら、金を積まれない... -
私とわたしの日日是好日
雨の日、憂鬱も君となら
しとしとしと。静かに雨が降っている。 テレビの中にいるお天気キャスターが、つい先日梅雨入りを宣言していたのを思い出して、絢瀬は今日の予定を思い出す。 昨晩、明日の雨が止んだら、買い物行こうよ。そうヴィンチェンツォは言っていたが、静かで... -
私とわたしの日日是好日
天国に一番近い家
会社から出た叶渚(かんな)と絢瀬は、駐車場に向かっていた。駐車場の近くに新しいドラッグストアができたから、品揃えを確認しに行こうということになったのだ。 「家の近くにあるドラッグストアさ、品揃え今ひとつなんだよねえ……まあ、小さい店舗だか... -
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夏の気配
緑鮮やかになりつつある五月の終わり。絢瀬はスーツのジャケットを着ながら、暑くなってきたな、と思う。 こういう時に車通勤ができたのなら、冷房の効いた車内にいられるのだけれど。そう思いつつも、会社から自宅までの距離ではガソリン代が出ないこ... -
私とわたしの日日是好日
三時のティータイムは映画の後で
大団円とは言いがたい、それでも決して幸せが待っていないとは限らないことを示唆する映像の後、エンドロールが流れる。ピアノの静かな音がスピーカーから聞こえてくる。 前評判は悪くない映画を、封切りした翌週に絢瀬とヴィンチェンツォは見に来てい... -
私とわたしの日日是好日
それはまるで、愛を告げるように
すり、と耳の付け根を撫でられて、ヴィンチェンツォはまただ、と思う。 絢瀬と並んでソファーに座っていても、それぞれ別のことをしているときは多々ある。そんな、隣り合っていながらも、別のことをしているときにそれは起こるのだ。 例えば、のんび...