「ヴィンスさーん。ピザ買ってきましたよー」
「ああ、助かるよ。ポップコーンの用意ができたよ。コーラもよく冷えてるよ」
「やった!」
玄関をヴィンチェンツォが開けると、そこには有名チェーン店の宅配ピザを抱えた巣鴨雄大が立っていた。テイクアウトで二枚目無料というキャンペーン中だからだろう。箱が二つビニール袋の中に入っている。気持ち箱が大きいように見えるのは、よく食べるヴィンチェンツォのためにMサイズではなく、Lサイズのものを買ってきたのかもしれない。
何味のピザなのかを尋ねると、王道のマルゲリータピザと肉とじゃがいもがたくさん乗ったものにしたと巣鴨は答える。どれもおいしいものだよね、と笑いながらヴィンチェンツォは巣鴨をソファーに案内する。ソファーに座りながら、ビニール袋から箱を取り出した彼は、これもキャンペーンで選べたんですよね、と炭酸飲料――もちろん、ゼロカロリーなんてものではないそれを掲げる。二本選べたから両方コーラにしましたよ、といった彼に、最高じゃないかとヴィンチェンツォは大きめのガラスコップを運んでくる。氷がごろごろと入っているそれと、一.五リットルの炭酸飲料を運び込んだヴィンチェンツォは、ポップコーンも用意するよとキッチンに戻っていく。
「ポップコーンって家で作れるんですねえ」
「百円ショップで売っていたよ、ポップ種のコーンが」
「まじで!? そんな身近にあるのかあ……帰りに探してみようかな」
「それがいいんじゃないかな。自宅で作ると、自分の好みでフレーバーを変えて楽しめるしね」
「ちなみに、今日のポップコーンは?」
「オーソドックスに塩とキャラメル味さ!」
「ぃやったー! 最高じゃないですか!」
きゃらきゃらと笑って喜ぶ巣鴨に、そんなに喜んでくれるならもっと種を買っておくべきだったかな、とヴィンチェンツォは苦笑する。大皿二つにそれぞれの風味付けをしたポップコーンを載せてローテーブルに運び込む。
テレビを付けていた巣鴨に、ちょっと借りるよ、とリモコンを譲ってもらい、チャンネルを操作する。ネット通販サイトの有料放送に切り替えると、二人で見ようと約束していた作品を選択する。それは少し前に公開を終了したアクションコメディ作品の映画だった。
「ちょうどこの作品が封切りされたとき、一番忙しかったですもんね」
「そうだね。おかげで休みの日に映画を見る気力もわかなかったんだよね……」
「でもアマプラで見られるんだから、良かったじゃないですか。これでブルーレイとかDVDだと借りに行くのが微妙に面倒くさくて、結局みたかったなー、で終わっちゃいますよ。俺は絶対そうだな」
「はは。それはあるかもね。私も、わざわざ借りに行くのはちょっと面倒くさいしね」
「ですよねー。うーん、やっぱりテレビは大きい方が迫力があるなあ……」
ポップコーンをつまみつつ、グラスになみなみと注いだコーラに口をつけながら、ふたりは並んでテレビを見る。画面は俳優たちがカーチェイスをしているところだった。
ユウダイ、スパイスかけるよ。そうヴィンチェンツォが言うと、全部かけちゃって大丈夫ですよ、と巣鴨がテレビを見たまま返事をする。わかったよ、と言いながら、ヴィンチェンツォはマジックカットのパウチを切って、満遍なくスパイスをピザに振りかける。
派手なカーチェイスに更に銃撃戦が加わり、画面も音楽もますます派手になっていく。はじめから飛ばしていきますね、と巣鴨が画面に釘付けになりながら感想を述べると、この監督はいつも最初の演出が派手なんだよ、とヴィンチェンツォは答える。
「派手なのは最初だけです?」
「もちろん、全編通してさ」
「竜頭蛇尾じゃないんですね、よかった!」
「最後までアクションは派手だよ。だから、君もきっとこの監督が好きになるよ」
「へへ、ヴィンスさんがそういうてことは、相当だから期待しちゃおうかな!」
「期待してくれて構わないよ。それだけの魅力がある監督だからね」
そんなやり取りをしている間にも、主人公たちは追手を撒いて夜の街を駆けていく。水浸しの道路を走っていく彼らを追うカメラワークが臨場感を与えている。
すっかり作品にのめり込んでいる巣鴨は、ピザを食べる手が止まっている。そんな彼をかわいらしいと思いながら、ヴィンチェンツォは自分もピザをワンピース手に取る。スパイスがかかったそれは、思いの外辛くはなくて食べやすい。ピザの油分をコーラで洗い流していると、巣鴨が止めていたピザを食べ始める。その口の動きは、テレビ画面に釘付けだからゆっくりとしている。
絢瀬も自分も映像作品を鑑賞しながらも、なんだかんだと食べることができるものだから、見ることに集中して食べることが疎かになる同僚がなんとなく面白い。
ピザを取り落とさない限りは放っておくか、とヴィンチェンツォは決断するともうワンピース、ピザを口にするのだった。