彼と彼女のアジアート– category –
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彼と彼女のアジアート
夏、茹だる炎天下
「……」 かき上げるほど長くない前髪をかきながら、晶は炎天下を歩いていた。本日の工場での仕事を片付け、バイクを自宅に戻してから、彼女は駅に向かって歩いていた。 バイクで駅に向かわなかったのは、人を迎えに行くためだった。同棲相手の巣鴨の仕事... -
彼と彼女のアジアート
小さな犬と大きな猫のワルツ7
「……そんなことがあったんですよ」「ふーん」「あ、これ話聞いてない返事だ」「職場の休憩時間以外で惚気に付き合わない、って決めてるんで」「そこはちょっとくらい付き合って欲しいんですけど!」「付き合える友達を見つけた方が早いのでは?」「社会人... -
彼と彼女のアジアート
小さな犬と大きな猫のワルツ6
たまには温泉気分になろうよ、と雄大が入れた乳白色の入浴剤がよく溶けた湯に浸かりながら、晶は自分の手を見る。日に焼けた浅黒い、変わり映えのしない手だ。 幼い時から晶は女子の中では抜きん出て体格が良かった。母の胎内に柔らかさを置いてきたの... -
彼と彼女のアジアート
小さな犬と大きな猫のワルツ5
「マヨネーズを軽く滑らせ……うわっ、ドバッといっちゃった! ……誤魔化せるかな……」「……パンに水分を吸わせないために塗るのが、マヨネーズなんだが」「……明らかにマヨネーズで水分吸ってそう!」 ぎゃあぎゃあと騒ぎながら、食パンにマヨネーズを滑らせ... -
彼と彼女のアジアート
小さな犬と大きな猫のワルツ4
「天気もいいし、お出かけ日和だよねえ」「ん」「洗濯物もよく乾きそうだしね。あ、このノート可愛い」「買うのか」「いや、まだノートはたくさん買ったのがあるから……大学時代に……」「そうか」 使い切ってから新しいのを買うよ。そう苦笑いしながら、巣... -
彼と彼女のアジアート
小さな犬と大きな猫のワルツ3
「かっこいい、か……」「そう! 妋崎さん……この間友達になった人に言われたんだ。晶ちゃんのかっこいいが分からないと、方向性がまとまらないでしょって」「ふうん……」「ということで! 晶ちゃんがかっこいいって思うことを教えてください!」 目をキラ... -
彼と彼女のアジアート
小さな犬と大きな猫のワルツ2
花金で飲んだ翌日に待っているのは二日酔いだ。そこまで酷い二日酔いにはならなかったが、どうにも酒が残りやすい体質の巣鴨は、重たい体を引きずってシャワーを浴びる。 熱いシャワーを浴びて多少体が軽くなった気がしたまま、シャワーのコックを捻る... -
彼と彼女のアジアート
小さな犬と大きな猫のワルツ1
「気がついたんですけど」「何に気がついたのよ」「いや、俺、やっぱり恋人にかっこいいって思われたいなって」「ごめん、巣鴨。ちょっと印刷したやつ持ってきてくれない?」「あ、はい」 部署の先輩である佐藤美奈子に指示されるがままに、巣鴨は複合機...