恋が入荷しました

title by Cock Ro:bin (http://almekid.web.fc2.com/ )

「アヤセ、ちょっとだけむこうを向いてくれるかい」
「ん? いいわよ」
「ふふ、ありがとう」

 ソファーに腰を下ろし、ハードカバーの小説本を読んでいる絢瀬の後ろに回ったヴィンチェンツォは、さらりとした髪の毛に触れる。柔らかく、細い絹のような髪をさらさらと触りながら、彼はジーンズのポケットからリボンを取り出す。細い、白のサテン生地のそれは、つるつると光沢がある。
 器用に左手で半分に折ると、真ん中の部分を右手で取り分けた髪の付け根に引っかける。そのまま器用にリボンと髪の毛を編み込んでいく。リボンが表に出るように編み込みながら、ヴィンチェンツォは余ったリボンを蝶々結びにする。編み込み部分をゆるく崩してバランスを整える。
 右側が綺麗な編み込みになったことに、ヴィンチェンツォは満足したらしく、今度は左側の編み込みを始める。もちろん、左側もリボンを巻き込んでの編み込みだ。ふんふん、と鼻歌を歌いながら手慣れた様子で編み込んでいく彼に、絢瀬はなにをしているのかしら、と声を掛ける。視線は本から逸らすこと無く、頭も動かさない。髪をいじられるのは気にしていないらしい。

「編み込みをしているんだ。でも、君の髪はさらさらしているから、滑りやすいね」
「あら、もう少し傷んでいたほうがよかったかしら」
「いつだって綺麗な髪の君が好きだよ。それに、このぐらいさらさらしていたって平気だよ。だって、私はアミーナの髪をいじっていたからね。髪をいじるのは得意だよ」
「アミーナさん、元気にしているかしら。全然あなたの家族に会えないから、次の大きな連休にはイタリアにいくのもいいわね」
「ああ、この間メッセージが来ていたよ。妹も君に会いたがっていたし、夏休みはイタリアに帰ろうか」

 みんな君がきたら喜んでくれるよ。
 そう笑ったヴィンチェンツォは、左側の編み込みにも蝶々結びにしたリボンをはじいて、完成したよ、と絢瀬の頭頂部にキスをする。どんな風にいじられたのかしら、と笑いながら本に栞を挟んだ絢瀬は、髪を見るために立ち上がる。
 洗面所に向かった彼女を見送りながら、ヴィンチェンツォは傍らのローテーブルに置いたままだったタブレット端末を取り上げる。タブレット端末の電源をつけ、電子書籍アプリを立ち上げる。読み放題の雑誌の中から、女性向けのヘアカタログをみつける。ショートヘアーでもかわいくアレンジできるものはないか、と雑誌をタップする。ちょうど洗面所から戻ってきた絢瀬が、素敵な髪型にしてくれたのね、とヴィンチェンツォを後ろから抱きつきながら声を掛ける。

「素敵だよね。職場でリボンを編み込んでる子がいてね。彼女を参考にしたんだ」
「あら、そうなのね。素敵な髪型だわ。これ、愛里紗ちゃんあたりが好きそうね」
「ああ、そうかもしれないね。写真に撮って、ハヅキに送ろうか?」
「姉さんじゃ上手くできないわよ。義兄さんに送ってあげて」
「はは、それもそうだね」

 カズヨシのほうがこういうの得意そうだもんね、と笑うヴィンチェンツォに、姉さんのほうが器用だけど、姉さんがやると雑なのよね、と絢瀬は笑う。

「ああ、ハヅキはちょっと雑だよね。器用なのに」
「髪の毛いじるの好きな割りに、そういうところが愛里紗ちゃんに嫌がられるのよね。我が姉ながら呆れちゃうわ」
「でも、あのぐらいどん、って構えられてると逆に安心するよね」
「それは……そうね。なんだかんだ、姉さんが後ろでげらげら笑っているのを見てると、慌ててるこっちがバカみたいに見えて、それはそれでなんとなく落ち着くのよね」

 しゃくに障るけど、嫌じゃ無いのよね、ああいうところは。
 ふふ、と笑いながら、絢瀬はスマートフォンのインカメラで編み込みを撮影しようとする。なかなか思ったような写真にならないらしく、ヴィンチェンツォが貸して、とスマートフォンを借り受ける。アウトカメラで左右の写真を撮影し、インカメラに切り替える。左右からの写真だけで十分だろうと思っていた絢瀬の肩に腕を回して、ヴィンチェンツォは彼女とツーショットを撮る。
 綺麗に撮影できたそれに満足しながら、ヴィンチェンツォは絢瀬にスマートフォンを返す。それを受け取った絢瀬は、自撮りされた写真をどうしたものかと考えながら、義兄である和義にヴィンチェンツォ渾身の左右のリボン編み込みの写真を送信する。こっちも送ろうよ、とヴィンチェンツォは太い指で自撮り写真も勝手に送る。
 えへ、と笑う彼にデコピンをしながら、絢瀬はこれはヴィンスが勝手に送ったの、と釈明のメッセージをつける。たまたまスマートフォンを見ていたらしく、和義の既読がすぐにつく。すてきな編み込みだね、というコメントに続いて、愛里紗がやってほしいと言うからリボン買ってきます、とコメントが送られてくる。
 少しして、家族のメッセージグループにあたしもあの編み込みしてほしー、と葉月のメッセージが送られてきて、絢瀬は義兄に悪いことをしたかな、と思いつつ、愛里紗ちゃんの編み込みは見せてね、とメッセージに返信をするのだった。

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