マスター・ナザックと、彼のサーヴァント・ライダーは先刻まで激しい戦闘を繰り広げていた。その影響もあって、油断すれば足が縺れてしまいそうなほどに消耗していたが、魔術的に防衛された廃墟を魔術的に改装したアジトに戻ってからは一息ついていた。相手からの追手の気配もなく、今日という夜を何事もなく終えられそうだった。うらぶれた外装の割に内装は比較的綺麗で、ナザックは簡素なベッドに腰を下ろす。彼が羽織っていたコートをライダーがブラッシングしているのを見ながら、ナザックは何でもないことのようにぽつりと呟く。それは呼吸をするのと同じぐらいの軽さで、ただの事実確認のようなものだった。
「今回も、死ねなかったね」
「……マスターを生かすのが、私の使命ですので」
「ふふ……そっかぁ。じゃあ、ライダーが邪魔をした、っていうことかな?」
「……マスター」
「冗談だよ。でも……」
なにか、もの言いたげなライダーに対して、ナザックは長い前髪に隠された目を向ける。反論しないで欲しいなあ、と彼の小さな口から漏れた言葉に、ライダーは秀麗な顔にばつが悪そうな表情を浮かべる。それが気に入らないナザックは、無言でベッドにかけていた腰を持ち上げると、すたすたと部屋の片隅に放っておかれていたカゴに向かう。古ぼけたカゴの中には、いくつかのアダルトグッズと医療用具が転がっている。アンバランスなカゴの中から、パステルピンクの小さなローターをふたつ引っ張り出したナザックは、残り少ないサージカルテープと一緒にベッドに運び込む。
ライダー。いらだった声で一言だけ呼びつけられたライダーは、ブラッシングを終えたナザックのコートをハンガーにかけてから、今すぐに、と返事をする。数歩でナザックの足下に傅いたライダーを見下ろしながら、ナザックは服を脱ぐように指示を出す。ライダーの服は魔術で編まれている。服の魔術だけを器用に解除したライダーは、筋肉がほどよくついた肉体美の身体を薄明かりの下にさらけだす。
男でも惚れ惚れするような身体を前に、ナザックは魔力供給をするから横になれ、と命じる。ひとつ頷いてから、ライダーはナザックが腰をかけていたベッドに横たわる。一糸まとわぬ肌の上、少しだけ盛り上がったふたつの乳首に、ナザックはローターをひとつずつ貼り付ける。ずれないようにサージカルテープで固定して、ローターのスイッチを入れる。ぶぶ、と小さく振動をはじめたそれに、ライダーは特に何も感じていないようで、いつもの穏やかな笑みを浮かべている。
その穏やかな笑みが少しだけ疎ましくて、ナザックはライダーの感度を魔術的に操作する。ライダーの肉体はナザックの魔力によって編まれている。便利なもので、ナザックの魔力次第で彼の身体は鋭敏にもなるし、不能にもなるのだ。感度を上昇させられたライダーは、んん、と悩ましげな声をあげる。それに気を良くしたナザックは、また一つ乳首のローターの強さをあげる。振動が強くなったからか、ライダーは悩ましげなあえぎ声を少し漏らす。自分より遙かに屈強な男が、自分の与える快楽でヨガっていることが、ナザックの鬱屈した気持ちを照らす。
このまま乳首で彼が達するところが見たくなって、ナザックはライダーの身体の感度を少し上昇させる。小さく喘いでいた彼が、びくん! と強く体を跳ねさせる。跳ねた腰が、だらだらとよだれを垂らす肉槍を強調する。ふるふると可哀想なほどに勃起し、今にも擬似的な遺伝子の残骸を吐き散らしたいだろうそれを、ナザックは一瞥する。
「出したいか」
「マスターが、許可を与えてくださるのなら」
「……」
ライダーの言葉に、ナザックはむっとする。快楽は強いものだろう。事実、ライダーの顔は快楽から赤みを帯びている。だというのに、ライダーはマスターであるナザックの指示を聞こうとする。泣いて叫んで快楽を乞うてくれればいいのに、そう思っていたのに、その考えが揺らいでしまう。
いつだって、ライダーはナザックを優先する。それがナザックには疎ましく感じることが多かった。死にたいと願っても死ねない体。そんな死にたがりでも守ろうとするライダー。それが気に入らないときがある。しかし、そんなナザックのことなどお構いなしに、ライダーは相変わらず穏やかな顔をしている。むしろ、彼は心配そうな顔をして、ナザックに手を伸ばしてくる。
「マスター……なぜ、貴方が泣くのですか」
「え……」
「私は、マスターのそばにいます。貴方が私を嫌っても、おそばにいます」
ライダーの手がナザックの頬に触れる。温かい手だ。ナザックの知らぬ間にこぼれた涙を拭ったその大きな手の熱に、ナザックは目を閉じてあたたかさを享受する。ぐす、と鼻を小さく鳴らすナザックに、ライダーはあなたが求めるのならどのようなことでも甘じて受け入れます、と口を開く。その言葉に、ナザックがお前が他の存在を誘惑するのが嫌だ、と小さく文句を言う。その言葉にライダーは、きょとり、と鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする。そんなライダーの様子に、ナザックは気がついてなかったの、と少しむくれたように口を開く。
「女の形をしたシャドウサーヴァントも、犬崩れの魔物も、僕じゃなくてライダーを狙っていた」
「それは……マスターを排除するよりも、私を排除した方が効率的だと思ったからでは?」
「それでも、僕を狙ったほうがライダーも一緒に消滅する。あいつらは本能的にお前に誘惑されたんだ」
「そんなまさか……」
ライダーは不思議そうにナザックの発言に首をかしげる。今日の昼にあった小規模な戦闘を思い出す。女性型のシャドウサーヴァントが数体、群れてきていたときは、たしかに彼らは一直線にライダーに向かってきていた。やつれた大型犬のような魔物とゴブリンの群れもまた、ライダーを一瞥してから襲ってきていた。しかし、ライダーからすれば、それは戦闘能力が高い存在を排除するための行動だという認識だった。
本能で動くシャドウサーヴァントや魔物が、実はどうだっかなど分からないが、彼が守り抜くべきマスターがそういうのならば、きっとそうなのだろう。そう理解して、ナザックに今後はそのような視線を受けないように注意をする、とライダーは約束をする。しかし、ナザックは呆れたようにため息をつく。
「今までだって、いっぱいライダーのことを見ているやつはいたんだ。まあ、気がついていなかったみたいだけど……」
「そう、ですか……」
「まあ、別に目にもかけてないなら、僕はそれで……」
もごもごと口の中で言葉を咀嚼していたナザックは、止まっていたローターをライダーの乳首から剥がす。びっ! とサージカルテープを勢いよく剥がされ、ライダーはびくん! と腹筋を震わせる。それでも陰茎からはカウパー液しか流れていないのは、彼の我慢強さの現れだろう。
ふっ、と荒く短い息をつくライダーに、すまない、とナザックは謝罪する。かまいません、とライダーは汗で張り付きかけた前髪の下で、穏やかな顔で返事をする。
なんでもないように耐えているライダーに、ナザックはそもそもの目的を思い出す。今日の大規模な戦いで消耗した魔力を補うのが目的だったはずだ。
「……そうだ、魔力供給……」
「いつものように、キスで構いません」
「……いや……その、ライダーがいいなら、」
性行為がしたい。
ナザックは顔をりんごよりも真っ赤に染めて、ライダーの顔を見る。これ以上なく顔を赤らめたナザックに、ご無理はなさらなくても、とライダーは困ったように進言する。どこまでも底抜けに優しいライダーに、ナザックは大丈夫だと言う。折れる気配のないナザックに、無理だと思ったらすぐに中断するように、とライダーは言うと、ナザックの顎を掬う。
あ、とナザックが思うよりも早く、ライダーは触れるだけの軽いキスを落とす。ちゅっ、ちゅっ、と触れるだけのキスを、ナザックの小作りな顔中に落としていく。くすぐったい口付けを受けながら、ナザックはライダーの顔を手のひらで固定すると、自分からキスを返す。ついばむような軽い口付けが、次第に深くなっていく。
深くなる口付けに合わせて、ナザックの手がライダーの顔から離れていく。その手は先ほどまでローターでいじめていた乳首にむかう。ローターの快楽でぷっくり、と膨らんだ乳首をそっと触れてやれば、ライダーの体はびくんとはねる。予想以上に跳ねた体に驚き、ナザックは唇を離してしまう。
「だ、大丈夫か、ライダー」
「はい……んっ……」
悩ましげな吐息に、ライダーが快楽を拾いやすくなるようにしていたことをナザックは思い出す。まだ普段よりもずっと快楽を強く拾ってしまう体に、ライダーは息を乱す。それがたまらなくいやらしくて、ナザックの愚息に一層血が巡る。スラックス越しにもわかるくらい、窮屈に収まっているそこを見たライダーが、そっとファスナーを下ろすと、そのまま下着ごとスラックスをくつろげる。
ぶる、と飛び出してきたナザックのそれは、半分ほど立ち上がっていた。それをナザックは軽く握り、しゅっ、しゅっ、としごく。いくらか竿を上下させれば、すっかり元気に立ち上がる。これからそれが自分の中に入るのがわかるからか、ライダーは愛しいものを見るような目で見つめてから、ベッドに横たわると、両足を開いて薄茶色の秘部をさらけだす。そこは早く咥えたいと言わんばかりに、ひく……と口を動かしていた。
ひくついているライダーのアナルに、思わず喉がなるナザック。彼は性的なおもちゃを転がしていたカゴから、ローションのボトルを引っ張り出す。手のひらに出したそれを指先にまとわりつかせ、ライダーのアナルのしわをなぞる。冷たいローションの感覚が、ライダーの鋭敏になった皮膚を刺激するのだろう。彼の立派な肉棒からは、だらだらとカウパー液が溢れて、アナルのしわをローションと一緒に濡らしていく。
ぐずぐずに濡れているそこを、ゆっくりと傷つけないように人差し指を差し込むナザック。ライダーの様子を伺えば、少し苦しそうではあるが、大丈夫です、と彼は誘うようにアナルをきゅ、と締め付ける。誘われるがまま、ナザックの指はライダーのなかに入っていく。ぐにぐにと爪を立てないように気をつけながら辺りを触っていると、なにかをかすめたような感覚がする。ナザックが今のはなにか、と思うより早く、ライダーが一層高い喘ぎ声をあげて射精する。びゅる、と元気よく飛び出した遺伝子の粘液が、ライダーのしっかりと割れた腹筋の上に散らばる。
それを見たナザックは、ここが彼の感じるところだと理解する。彼は指をさらに増やして、二つの指でかすめたところを押したり、はさんでみたりする。ぐにっ、ぐっ、と前立腺をいじられたライダーは、口の端からよだれをこぼしながら、イキリたった陰茎と腰を跳ねさせる。かひゅっ、と掠れた呼吸になってしまったライダーに、思わず集中してしまっていたナザックは大丈夫かとおろおろと尋ねる。
「だぃ、じょうぶ、です……んん……」
「ほ、本当に大丈夫か……?」
「ええ……マスターこそ、私の痴態に元気をなくされていないのでしたら、もう入れていただいて構いません……」
「そんな……嫌なわけ、ない、から」
ライダーが誘ったから、とごにょごにょと呟きながら、ナザックはまだまだ元気な愚息を、ライダーの開きかけのアナルにぴったりと押し当てる。ナザックの熱を感じたライダーは、存在しない子宮をきゅん、と引き攣らせる。ふーっ、ふーっ、と何度か呼吸を整えていたナザックは、一息に腰を進める。
ぐちゅん、とローションとカウパー液で濡れていたライダーのアナルは、やすやすとナザックの陰茎を受け入れる。ナザックの腰とライダーの尻がぶつかる乾いた音と、ぐちゅぐちゅと卑猥な粘り気のある音が廃屋の中に響く。ぐぷっ、ごぷっ、とローションが潤滑剤として本来の役目を果たしながら、きゅうきゅうと締め付けるライダーのアナルに、ナザックは耐えきれなくなる。ライダーはライダーで、ナザックの陰茎で何度も前立腺をこすられて、ひっきりなしに高い喘ぎ声を出している。
「ライ、ダー……! なか……なかに、だして……いい……!?」
「マスタっ……! 出して、ください……っ! わたしの、なかに……!」
「はーっ……! わ、かった!」
一層強く腰を打ちつけるナザック。骨がぶつかる音がするのではないか、というほど奥まで陰茎を打ちつける。その際に擦り上げた前立腺で、ライダーは大きく体を跳ねる。水からあがった魚のようにびくん、と大きく跳ねてから、彼の陰茎は蛇口をあけたように射精する。びゅるびゅる、と二回目の射精でも、粘り気も色も衰えていない。
ライダーの射精で、彼のなかはぎゅうぎゅうと締め付けるようにうねる。中にあるナザックの陰茎を千切るのではないか、と思うほど強く締め付けられて、彼もまたライダーのなかに吐精する。びゅぐっ、と吐き出された精液を最後の一滴まで搾り取ってやる、と言わんばかりの締め付けに、ナザックは長く息をつく。
お互いにしばらく放心する。ふたりの荒い息だけが廃墟の中に響く。
少しして、欲を吐き出して少し硬度を失った陰茎を、ナザックがゆっくりと引っ張り出す。失うのが惜しい、と言わんばかりに、ライダーのアナルは彼の陰茎をきゅぷきゅぷと食む。少し抜けば、嫌がるように締め付けるものだから、少しずつナザックの陰茎に血が通い始める。それを腹の中で察したライダーは、目を細めてうっそりと微笑む。
「いいですよ、マスター」
「でも、さっき中に出して……気持ち悪くないのか?」
「いえ……むしろ、気持ちよかったです、とても。だから、マスターをもっと感じたい」
「ら、いだー」
真正面から向けられた言葉に、ナザックは赤面する。正面から、飾ることのない正直な感情をぶつけられて、心が動揺する。嬉しかった。乾いてひび割れた大地に水が染み渡るように、ライダーの言葉はナザックの胸の中に広がる。
それはそうとして、すっかり元気になってしまった陰茎を恥じらうように、ナザックはそっちが誘ったから、と早口でもごもごと文句を言う。そんな彼に、ライダーはふふ、と笑う。ライダーが笑ったからか、彼のはらの中もきゅ、と軽く締め付けてくる。楽しそうに笑うライダーの口を塞ぐようにして、ナザックは彼の唇に自分の唇を重ねる。
きちんと味わってのキス。重なったライダーの唇は、少しだけカサついていた。