『行方不明の』から始まり、【携帯】の出てくる話

『行方不明の』から始まり、【携帯】の出てくる話(予備:扉・犬) #お題ガチャ #書出ワード https://odaibako.net/gacha/171

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 行方不明のニュースが流れた。全国区のニュースで流れたそれは、夫婦の行方不明事件だった。近隣の住民たち曰く、優しくトラブルもなかったらしく、理由もなくいなくなるような人々ではないらしい。会社の同僚や上司のコメントも、勤務態度は真面目そのもので、無断欠勤するようなタイプではなかったらしい。
 窓のない、ブルーシートが壁や床に取り付けられた、コンクリート打ちっぱなしの部屋で流れるのにふさわしいニュースだったかも知れない。その部屋の中心には、一脚の椅子がある。古ぼけたパイプ椅子だ。そこに固定されている女性は、下着一枚の身体をパイプ椅子に固定されていた。ガムテープでぐるぐる巻きにされるだけではなく、アルミワイヤーでも固定されている。ぎちぎちに固定されているせいか、鬱血している箇所もある。
 項垂れている彼女の目に生気はなく、古ぼけたラジオから聞こえるニュースの声も耳に入っていないようだった。
 不意に、がちゃ、と扉が開く。ブルーシートの向こう側から聞こえたその音に、女性はびくんと大袈裟に体を震わせる。がさがさとブルーシートを縫って部屋に入ってきたのは、白髪と黒髪の混ざった少女とも言えそうな年齢の女性だった。
 黒い髪の部分だけをツインテールにして、白い髪は下ろしている。大きな橙色の目はきらきらとしている。黒いソックスに黒いスニーカー。大きめのTシャツを短いプリーツスカートにインしている彼女は、なんとも場違いだった。場違いな服装の彼女の手には、大きく無骨な工具箱が握られていた。
 彼女、黛弥世は項垂れたままの女性にとことこと近寄ると、黒い軍手をはめた手で首に触れる。布が首に触れた時、女性はひっ、と息を呑んだ。

「おきたぁ?」
「……」
「おくちチャックしてないから、しゃべってもいーんだよ?」
「……」
「おしゃべりしたくなかった? そっかぁ……」

 弥世は無言で震えている女性をよそに、つまんないなー、とぼやいている。彼女は女性の後ろに回ると、彼女の先が欠けている指を握る。右手の親指と、人差し指の第一関節部からない女性の手は、誰かが適切な処置をしたのだろう。膿んでいる様子もない。ガーゼと包帯で巻かれた彼女の指を見ながら、弥世は今度はこっちのおててだよー、と右手の中指を握る。
 俯いていた彼女が暴れようとして、それをいち早く察知した弥世は、乱暴にパイプ椅子を蹴り倒す。女性の頭を床にぶつけるように蹴り倒した弥世は、今日も元気いっぱいでいい子だねえ、とにこにこしている。

「でも、しょうがないよね。だって、けーじの会社に迷惑かけたひとだもんね」
「わ、わたしは……!」
「あれ? ちがったっけ……あ、迷惑かけたのは、このひとの旦那さんだ! でも、旦那さんが悪いことしたのに、黙ってたのも悪いもんね」
「そんな……」
「ふたりとも悪いことしてたから、しょうがないよね〜。悪いことしたおててとお口はないほうが反省できるもんね」

 弥世は大きな工具箱を下ろすと、どの子にしようかなぁ、と箱の中身を漁る。がちゃがちゃという無機質な音が、彼女の指を切り落とすための音だ。その音に、彼女は震える。紫色に震える唇を見た弥世は、痛いのは一瞬だよ~、とずれた言葉で安心するように促す。首だけを動かした彼女は、目に涙を浮かべながら、こんなことをして、と震える唇で糾弾する。それを聞いてもなお、弥世は不思議そうにきょとんとしている。
 弥世の表情は心底不思議そうで、まるで女性が訴えていることがよく分からない、といった顔だ。実際、弥世は女性がなぜ彼女をとがめているのか分からないのだから、きょとんとした顔になってしまうのも、しかたがないことだろう。

「ん~? こんなことって、指がばいばいしちゃうこと~?」
「あ、あなた……! わたしたちをさらって、指を切り落として……!」
「けーじがそうしろって言ったんだもん。だから、ただしいことなんだよ?」
「なにが……! 暴力団の男のいうことが、正しいわけが……!」
「ん~……でも、みよが困ってるとき、助けてくれたのはけーじだから、けーじはただしいんだよ?」

 だって、ほかのひとは助けてくれなかったもん。
 けろり、と言った弥世は、女性のいう社会的な正論の理由がまったく分からない。彼女にとって正義とは敬司の言葉であり、彼の指示を守っている間は弥世も正義の側にいるのだ。かたかた、と怒りか、はたまた恐怖で震える女性をよそに、もう一度部屋の扉が開く。うん~? と不思議そうな顔をしている弥世のもとに、携帯電話を持った角刈りの男がやってくる。がさがさとブルーシートをかき分けてやってきた男は、姫様、と弥世に近寄る。

「どったの~」
「今、兄貴から連絡がありまして。男のほうがゲロったんで、その女に用がなくなったと」
「そっか~。じゃあ、もうないないするの~?」
「はい。いつものように処分してもらえれば……」
「わかった~」
「すいません。姫様にこんなことさせちまって」
「いいの~。だって、けーじにも運動しろ~って言われてるし~」

 いい運動になるよ~、と弥世がにこにこして言えば、男はそうですか、と返事をする。終わったら教えてください、外にいます。そういって出て行った男を、ばいばい~、と見送った弥世は、じゃあこれ使うか~、と工具箱から大きなペンチをひっぱりだす。じゃーん、と効果音を口で言いながら取り出したそれは、本来の使い方をされていないのだろう。どことなく汚れている。それでもさび付いた様子が無いのは、使った後に綺麗に手入れをされているからだろう。
 あとこれ~、と言って取り出したのは鉈だった。これも綺麗に手入れをされているようで、切れ味は良さそうだった。よいしょ、と言いながらペンチと鉈を取り出した彼女は、ごろん、とパイプ椅子ごと女性をひっくり返す。こっちのほうがやりやすいからね~、と言いながら弥世は強制的に仰向けにした彼女に質問を投げかける。

「おたばこは好き~? おさけは毎日のむ~?」
「え……?」
「はやく~。おしえて~?」
「た、たばこは吸わないし、お酒も毎日は飲まないけど……」
「そっか~。どのぐらいのんでる~? けーじはね~、ロックグラスにね~、氷いっぱいいれて、ウイスキーをね~、いっぱいだけ飲むのが好きなんだよ~」
「しゅ、週に二回ぐらい……一缶ぐらい……」
「そっか~、かんぞーにやさしい人だね~」

 なんでかんぞーにはやさしくできるのになあ、と弥世は不思議そうな顔をしながら、女性の口の中にペンチの先を入れる。大きくひらいて~、と何でも無いように弥世は言うが、口の中にペンチを入れられたほうはたまったものではない。もがもがとペンチを口から出そうと暴れるとする女性に、弥世はんもー、と言いながら馬乗りになる。口からペンチを取り出した弥世は、そのまま女性の下の前歯をペンチで挟む。
 あばれるのが悪いんだよ~、と呆れた様子の弥世はえいっ、と彼女の下の前歯を引き抜く。麻酔もなく引き抜かれた前歯に、女性は驚きと、少し遅れて痛みを感じる。手際よく引き抜かれたからか、歯肉からの出血はひどくない。大声で絶叫する彼女に、あばれたからおしおきだよー、と弥世はなんでもないように言う。

「いたいのはいやでしょ~? じゃあ、大きく口をあけて~?」
「ひっ……」
「もっと大きく~。あごがね~、はずれちゃう~ってくらい~……そうそう~、えらいね、お姉さん~」

 これでもか、と大きな口をひらいた女性を褒めながら、弥世はペンチを置いて鉈を手に取る。さいごはちゃんとできたからごほうびだよ~、と彼女はなんでもないように鉈を振り上げて下ろす。まるで塊の肉を薄くスライスするように振り落とされた鉈は、女性の首を綺麗に切り落とす。痛みすら感じなかったのだろう、女性は大きな口を開けて、不思議そうな顔をしたまま頭と胴体を分割させられる。
 ごろん、と転がった首をもちあげ、弥世はおしごとするか~、と鉈を置いてペンチを握り直す。ひとつひとつ並んだ歯を引き抜きながら、女性の服の上に並べていく。最初に引き抜いた歯も漏れなく並べる。口の中をくまなく点検してから、弥世はよっこいしょ、と立ち上がる。足で頭を固定してから、彼女はペンチを工具箱にしまって、鉈を握る。大きく見開いた目に切っ先をあてて、よっこいしょ、と両眼をえぐりとる。

「えーと、あとは……あ、おみみとおはなもおとしちゃうか~。あとはん~……かみのけもじょりじょりさせて~」

 まるで着せ替え人形で遊ぶ子どものように、弥世は女性の顔についている耳と鼻を鉈でそぎ落とす。工具箱に入っていたバリカンで、女性の綺麗な髪を根元から刈り上げていく。なくなった~、とはしゃぎながら、弥世はこっちもちょっとだけお手伝いしとこ~、と、女性の胴体に鉈を向ける。

「うでと~、あしだけおとして~。あ、関節から切り分けておいた方が楽だよね~」

 そんなことを言いながら、彼女は鉈ですぱん、と女性の残った手の関節を切っていく。それこそ、ブロック肉をスライスするように、手慣れた手つきだった。

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